こんにちは、シンです。今回はケンドリックラマーの紹介です。非常に有名なラッパーなので説明いらずかもしれませんが、彼の『Good Kid, M.a.a.D City』を中心に解説してみたいと思います。
USのヒップポップシーンが、Kendrick以前/以後に分かれるのは明白です。では彼を現在『王者』たらしめる理由は何なのでしょうか。
彼はカリフォルニア州コンプトンの生まれです。コンプトンは全米でも屈指の犯罪地区。彼の周りには早くからギャングに入る友達も多く、犯罪行為に手を染めることが容易な環境で育ちます。
その中で彼は着実に自らのキャリアを積み重ねて行きます。キャリアの初期から比較的に覚めた目で自分のことを相対化し、自らの置かれた環境をラップする様は、自分を理解するための『自己治療』のように映ります。
『よい作品を書くためには自分のよく知っていることを書くことだよ』
これはアメリカを代表する作家レイモンドカーヴァーの言葉です。この言葉の通り、彼は自らがよく知る『物語』について言葉を紡いで行きます。
大傑作『 Good Kid, M.a.a.D City 』はその集大成と言えます。このアルバムはまるでKendrickの青春期を物語るコンセプトアルバムの如く、聞き終わればその強烈な叫びに圧倒されてしまいます。
百凡のラッパーとKendrickを分ける境界線は、端的に示すとすれば、こういえるでしょう。
彼は経験したことをただ物語りません。彼は経験を相対化してラップに落とし込みます。彼はクールに客観する姿勢を終始保とうとするものの、ラップで内側からそれが崩される瞬間、圧倒的な説得力を持って聞く者を圧倒します。
まずこちらを聞いてください。アルバム屈指の名曲『Money Trees』です。
彼は日常を淡々と語っていきます。人の家に入って盗みを働き、ラップスターに憧れるが、現実はそれとは程遠い貧困。そして、フックではこの言葉が繰り返されます。
これは『貧困』がテーマの一つになっていますが、曲のバースで日常が描かれることで、フックのメッセージが確かな説得力をもっています。
次は仲間の同調圧力を扱った『The Art of peer pressure』これも名曲です。
どうでしょうか。もはや彼の書く『歌詞』は音楽のLyricという領域を飛び越え、半分『詩』の了解に足を踏み入れているように感じます。
他にも、アルコール中毒を扱った『Swimming pool』など素晴らしい楽曲が目白押しなのですが、このアルバムはぜひ初めから終わりまで通して聞いていただきたいと思います。Kendrickのある種の自伝のような要素もあるのでかなりおすすめです。
このアルバムで成功をおさめた彼ですが、僕は当時、正直この路線で次を作ることは非常に難しいなと感じていました。なぜなら、成功をおさめたおかげで立場が逆転し、『貧困』や『暴力』をテーマとして扱うのは説得力が欠けてしまうと感じていたからです。
ですが、それは杞憂に終わりました。次のアルバム『To Pimp a Butterfly』はもう一段階上を行くアメリカ史に残る革命的なアルバムでした。
続く。。。
コメントを残す