『アタラクシア』金原ひとみ

こんにちは、シンです。今日は金原ひとみさんの『アタラクシア』を紹介します。

この本を一言で要約するとこんな感じ。

人を愛するという本能の不毛さを描き出した本

今作は新たな代表作といっていいほど出来が良く、上半期にこれまで読んだ日本の小説の中で一番面白かったです。

ストーリーは由依という女性を中心にして、その周辺を取り巻く人物へと視点が変わっていき、最終的に婚約者の桂さんの視点で終わるというものです。

この本を読んで、特に面白かった点は下記です。

愛することの不確かさを描いている点

登場人物はそれぞれ傍目には幸福な生活を営んでいるように見えますが、人と人との結びつきがいかに崩れやすく脆いものかを、愛するという視点から切り取っていて非常に面白いと感じました。浮気とか不倫とかのテーマに留まることなく愛することの不確かさという本質的なところまで描いているようで非常に興味深かったです。ちょっと長いですが、文章を引用します。

私は私の人生に対してあまりに無力すぎる。確かなものに触れたかった。いつも同じ時間に明かりが灯る灯台のような、必ず沈んでは昇る太陽のような、確実な周期ではなくても必ず寒さの後には暑さが暑さの後には寒さがやってくる四季のような、雲が無ければ必ず見える北斗七星のような、投棄された後ずっと変わらず存在し続ける腐食しないプラスチックゴミのような、そういう確実なものに触れたかった。

こういった心理描写が非常に好きです。愛することの不確かさを暗に実感するからこそ、即物的に繋がりを見出す姿が上手く描写されていて、著者の得意なモチーフが一層深化しているように感じました。

例にもれず、今回もセクシャルな描写が多いですが、愛することの不毛さを感じて考えさせられます。感覚的でリアルなので、読んでいて『痛み』を感じることもありますが、そういった鋭い差し込みのある文章は非常にヒリヒリしていて、この作者ならではといった趣があります。

暴力や性を扱ったシーンがあるため、そういったのが苦手な方にはお勧めできませんが、『凍った心を溶かすような斧』のように、読者の心に響くパワーを持ち合わせた作品なので、ぜひ読んでほしいです。

ではではー

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