『キャピタル』 加藤秀行

こんにちは、シンです。今日は加藤秀行さんの『キャピタル』について紹介していきます。この小説を一言で表現すると

村上春樹が超エリートサラリーマンだったら

という感じです。とにかく会話が素晴らしい。こんな感じです。

美女という言葉には価値が含まれているからね。根っこは同じさ。価値を問うんだ。お話の定義だよ。始まりがあって終わりがある。あるべき所に物事は収まる。そしてすべてのものにはプライスタグがついている。そういった海流のうねりみたいなものに対する本質的などうしようもなさは心の深い所でみんな理解しているんだ。叩き込まれてると言い換えてもいい。

アフォリズムめいた言葉が散りばめられ、テンポよく進んでいきます。ただし、主人公を始めとして『ビジネス』の枠組みでしか物事を捉えることのできない諦念や悲壮感がうっすらと物語に漂っていて、そこがこの小説の大きな魅力になっています。

物語の流れはコンサルに勤める主人公が一時休養を取得し、同僚からある依頼を頼まれ……といったものです。

ファームでは7年間の勤務後、一年間の休暇をとる権利が与えられる。休暇終了後、何事もなかったかのように戻って来られるし、跡形もなくどこかへ消え去る人もいる。

この物事の主題は『どこへもいけない』です。コンサルタントとしてなんとか生き抜いたのはいいもののそこはかとない虚無感が覆い、もうどこへもいけない虚しさを感じている。そういった意味だとアメリカ文学のドンデリーロとかと雰囲気近いかなぁと感じますね。ただ本作品の主人公はまだ情緒性が残っていて普通の感覚が残ってます。(デリーロの作品はぶっ飛んでますからね。まぁそこが魅力です。)

例えばこんな描写

まるで一人で話しているようだった。ここには僕以外の誰もいなくて、虚空に意味のない言葉を投げ込んでいる。そんな気がした。
どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。そう思った。途方もない疲れがやってきた。放置されたうす曇りの倉庫街を包むような悲しみがやってきて僕を捉えた。

僕はこの著者の作品はすべて読んでいて好きです。『ビジネス』をテーマに資本主義と人間という主題を創造力溢れる筆致で描いています。そこから産まれる葛藤とかが説得力があります。これは間違いなく著者の文学的美点です。

ビジネス書が好きで最近小説を読んでないという方は読みやすいのでおすすめの一冊です。

ではではー

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