『海の乙女の惜しみなさ』デニス・ジョンソン

こんにちは、シンです。今日はデニス・ジョンソンの『海の乙女の惜しみなさ』を読了したのでご紹介します。

デニス・ジョンソンさんはアメリカ出身の小説家です。彼は2017年に亡くなっており、本作は彼の遺作となります。 デニス・ジョンソンは90年代アメリカで出版された最良の本のひとつ『ジーザス・サン』の作者です。

個人的に初めて 『ジーザス・サン』を読んだ時は圧倒されて言葉が出なかったのを覚えています。 文脈から飛び越えた地点で突如出てくるセンテンス。場違いともとられかねない詩的な鋭さに感服せずにはいられませんでした。

また、この本は多くのアメリカ作家に影響を与えています。アメリカ文学が好きな人はぜひぜひ読んでみることをお勧めします。『ジーザス・サン』の 『ダンダン』という作品は、柴田元幸さん訳と村上春樹さん訳がありますので、興味のある方はお二人の訳を比べてみると面白いかもしれません。

本作は 『ジーザス・サン』に続いて、第2短編集となります。結論から言うと

『首絞めボブ』は新たな著者のマスターピース

です。この作品を読むだけでこの本を買う価値があります。間違いなくデニス・ジョンソン さんにしか描けない小説世界です。内容は刑務所の中という「外の世界」から切り離された語り手と受刑者のお話です。非常にタイトで、差しこみのきつい内容ですが、とても面白いです。物語の最後が強烈です。以下最後の一文のみ引用します。

俺がせせら笑っていた神の天使どもが犠牲者の数を合計して、俺が自分の血で何人殺したのか教えてくれるだろう。

このほかにも、断章形式の表題作『海の乙女の惜しみなさ』や、手紙という体裁の『アイダホのスターライト』、ノートに書いたという想定で物語が進む『墓に対する勝利』や、プレスリーを扱った『ドッペルゲンガー、ポルターガイスト』などがあります。どの作品にもデニス・ジョンソンさんの確かなシグネチャーがあります。

読んでいく中で、ふと僕が感じたのは、デニス・ジョンソンの戦争に対する視点ですね。 アメリカ生活に隠れている戦争という、大著『煙の樹』を書いた著者の視点がこの本でも散見できました。

彼が言うには、人生で一番静かだったのは、アフガニスタンのカブール近郊で地雷が彼の右足を奪った音だという。―「海の乙女の惜しみなさ」
神よ、この地上で我々がおたがいになしていることをみたまえ。 ―「ドッペルゲンガー、ポルターガイスト」

もう著者の新作が読めないのは寂しい限りです。ご冥福を祈りつつ、この本を噛みしめるようにもう一度再読したいと思います。最後に、私が一番好きなデニス・ジョンソンの文章を。

I knew every raindrop by its name. ― 俺には雨粒一粒一粒の名前が分かった。

ではではー

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