『犬のかたちをしているもの』高瀬隼子

こんにちは、シンです。今日は文芸誌で面白い小説を見つけたのでご紹介します。紹介する小説は高瀬隼子さんの『犬のかたちをしているもの』です。この小説はすばる文芸賞を受賞していて、受賞作として11月号の『すばる』に掲載されています。

この小説を要約するとこんな感じ。

主人公の薫とその恋人の郁也。突然に彼の子を妊娠しているミナシロという女性を紹介され、いろいろあった話。

小説の設定はやや突飛ですが、語り口の妙というか著者の文章力の高さでスルスルと読めてしまいます。冒頭ミナシロさんをドトールで紹介されるシーンが好きです。自然な語り口なのですが、すこし冷めた目線がいいです。

店内は混んでいる。スマートフォンをいじる人、パソコンを開いている人、本を読んでいる人、資料を覗き込んで何かを話し合っている人たち。そうドトールってこういうとこだ。子どもをあげる、あげない、なんて話をするところじゃなくて。

この小説は男女関係や妊娠といったテーマのほかにも、東京と地方、仕事といった様々なモチーフが散りばめられていて、その中でもお話のなかで繰り広げられるエピソード、もっというと小話みたいなところが大きな魅力だと感じます。

例えば、郁也との出会いのシーンで彼が帰り際にずっと手を振っているシーンや、会社の同僚の笹本さんが薫の第一印象を話すシーンなどが妙に居酒屋トーク的なリアリティがあって、そこがボディブローのようにじわじわと読者を物語の現実に引き込んでいきます。

山手線のホームで電車を待っていると「おーい!」という声がした。酔っ払いがいるなと思いながらアイフォンの画面に目を落としていると、「おーい!おーいって!間橋さん!」と自分の名前が出てきたのでぱっと声をあげる。
「会社の飲み会に遅れて行った時に、わたしと課長が不倫しているって話で盛り上がってるのが聞こえてきて、さすがに中に入れなくて様子をうかがってたら、間橋だけすっごい興味なさそうに、店員さんにおすすめの日本酒を聞いていたから、いい子なのかもと思った」と告白された。

本書の主題である身体性というところも、最後のフレーズまできれいに繋がっていてまとまっているように感じます。

郁也になで続けられた背中が熱を持ってくる。そのうち眠ってしまった郁也の手は止まるけど、残された熱はそのまま私の体の一部になって、いつまでも発熱し続ける。

この著者は「違和感」を描くのが上手いなと思います。主人公の薫が日常で感じるズレ(それはしばしば、他人との考えのズレ、社会と自分のズレ、感情と身体のズレだったりします)が、第三者的に確かな距離をもって観察される様が素晴らしいです。巻末のインタビューでも語っている通り、この作家の大きな魅力のひとつです。

小説に書いてみると、その不快感が何だったのか、どんなことに違和感を覚え、何に傷ついたのかを、理解し言語化できるような気がする。

二作目が楽しみですので、早く発表してほしいです。僕自身は次作も絶対買います。ではではー

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