『美しく呪われた人たち』 F・スコット・フイッツジェラルド 上岡伸雄訳

こんにちは、シンです。今日はF・スコット・フイッツジェラルド 上岡伸雄訳の『美しく呪われた人たち』を紹介します。

この本を要約すると、 下記という感じです。

傑作『グレート・ギャツビー』に至るまで。フィッツジェラルドの長編第二作

今作は日本で初めて訳される作品のようです。

というのも、この作品はフィッツジェラルドの作品の中でもあまり評判が良くない。いかんせんフィッツジェラルドのハイパーな筆致をもってしても、以下のような作りの荒い点が目立つのは何とも言い難いですね。

●結末がとってつけたようで腑に落ちない
●序盤の崩壊に至るまでの描写がページ数を割く割には冗長に感じる

ただ、そこはやはりフィッツジェラルドの作品ですので、息をのむほどの美文が本作にも数多く登場します。また、最後のおよそ100ページくらいは生活が崩壊していく様とその心情を描いてさすがに読ませます。

あらすじとしては、華やかな貴族の主人公が贅沢な生活に溺れ、破滅に向かっていくが…という流れ。1920年代のアメリカで、まるで自らのその後の人生を予兆するかのような、ある種フィッツジェラルドの自伝的内容といってもいいような筋立てとなっています。

僕がこの小説を読んで感じたのは、主人公の不安を描写する文章が多い点です。フィッツジェラルドのその後の波乱万丈な人生を理解した後に読むと、まるで彼の当時の心情が重ね合わさっているようで非常に印象的でした。

十年前と同じくらい多くのものに意義と意味を感じる者は単純な精神の持ち主だ。三十歳の目には、手回しオルガン弾きはオルガンを手で回している汚い男に過ぎない。

また、主人公と恋人が崩壊していく様は、後年フィッツジェラルドとゼルダが歩むことになるであろう過程をなぞっているようで儚く脆い悲哀のような印象を受けました。

次の一年間のうちにアンソニーとグロリアはコスチュームを失くした役者のようになった。もはや悲劇を演じ続けるプライドさえ失くしてしまった役者

信じられるものを失い、刹那的に今を生きる『失われた世代』を描いた著者ですが、その不安と崩壊に至る過程のすさまじさは、今でも大きなインパクトで読むものを圧倒します。

翻訳も癖の少ないナチュラルで丁寧な訳ですので、アメリカ文学の古典を楽しむにはもってこいの一冊です。

ではではー

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